秋の朝は、思っているよりずっと早くやってきます。
まだ空が群青色を残している時間に、少し厚手の上着を羽織って家を出ました。吐く息はほんのり白く、肌にふれる空気はひんやりと澄んでいます。街はまだ眠っていて、聞こえるのは自分の足音くらいです。
そんな静けさの中を歩いて、近くの神社へ向かいました。
鳥居をくぐると、空気が変わる
石の鳥居の前で、軽く一礼します。
一歩くぐった瞬間、空気がすっと変わるのを感じました。気温が変わったわけではないのに、背筋が自然と伸びて、呼吸がゆっくりになっていきます。神社には、そんな不思議な力があるように思います。
参道の両脇には、背の高い木々が静かに立っています。まだ薄暗い枝の向こうで、空が少しずつ青から淡い橙へ変わっていくところでした。
じゃり、じゃり、と響く音
参道には玉砂利が敷かれています。
一歩踏み出すたびに、じゃり、じゃり、と音が鳴ります。朝の静けさの中だと、その音がやけに大きく、そしてやさしく響きます。急いで歩くと音は少し慌ただしくなり、ゆっくり歩くと丸くて穏やかな音になります。
不思議なもので、その音を聞いているうちに、頭の中でぐるぐる回っていた考えごとが、ひとつずつほどけていきました。今日の予定のことも、やり残した用事のことも、じゃり、じゃり、という一定のリズムに溶けていくようです。
足を止めると、音もぴたりと止まります。すると今度は、遠くで鳴く鳥の声や、木々の葉が揺れる音、自分の呼吸の音まで聞こえてきました。
音のない静けさではなく、小さな音がたくさん重なってできた静けさです。
夜明けの光が差し込むとき
手水舎で手を清めると、水の冷たさが指先から体の奥まで届いて、頭がすっきり目覚めていくようでした。
拝殿の前でお参りをしていると、東の空からそっと光が差し込んできました。木々の隙間を抜けた朝日が、玉砂利をひと粒ずつ照らして、参道が淡く金色に染まっていきます。
さっきまで影の中で灰色に見えていた石たちが、光を受けて、ほんのりあたたかな色に変わっていきました。夜が明けていく瞬間というのは、何度見てもいいものです。
地面には、色づいた落ち葉が数枚。赤や黄色の葉が玉砂利の上にのっているだけで、それがひとつの景色になっています。
帰り道の足音は、少し軽くなっていた
お参りを終えて、来た道をゆっくり戻りました。
行きと同じ玉砂利の道なのに、帰りの音は少し違って聞こえました。気のせいかもしれませんが、足取りが軽くなって、音まで穏やかになっているようでした。
鳥居をくぐって外に出ると、街にも朝の気配が戻り始めていました。遠くから車の音が聞こえ、どこかの家の窓に明かりがともります。いつもの一日がはじまる音です。
でも、胸の中にはさっきの静けさが、まだほんのり残っていました。
おわりに
忙しい毎日の中で、心を落ち着ける時間をつくるのは意外と難しいものです。でも、少し早起きして、近くの神社まで歩くだけで、驚くほど気持ちが整うことがあります。
特別なことは何もいりません。秋の澄んだ空気と、夜明けの光と、玉砂利を踏みしめる音。それだけで、心はちゃんとやわらかくなっていきます。
もし朝の空気に誘われる日があったら、ぜひ近くの神社を訪ねてみてください。じゃり、じゃり、というやさしい音が、きっと迎えてくれます。
今日も、おだやかな一日になりますように。
ここまで読んで頂き、ありがとうございます
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