「カンカンカンカン……」
遠くから聞こえてきた警報音に、自転車のブレーキをそっとかけました。目の前で遮断機がゆっくりと降りてきます。
いつもなら「あ、ついてないな」と思ってしまう踏切待ち。でもその日は、どうしてか少しも嫌な気持ちになりませんでした。
理由は、きっと空です。
秋晴れの空は、待つ時間をやさしくする
見上げると、夏の重たい青とは違う、澄みきった高い空が広がっていました。雲は薄く伸びて、絵筆でさっとなでたよう。空気は乾いていて、頬にあたる風がひんやりと心地いい。
半袖では少し肌寒くて、長袖ではちょっと暑い。そんな秋のはじまりの日差しが、背中をぽかぽかと温めてくれます。
踏切の脇には、風に揺れるススキと、黄色い花をつけたセイタカアワダチソウ。赤とんぼが一匹、遮断機の先端にすっと止まって、羽を休めていました。
電車が来るまでの、なんでもない数十秒
警報音は、ふしぎと落ち着く音です。
急いでいるときは焦らせる音なのに、気持ちに余裕のある日は「あぁ、もうすぐ来るな」と、ちょっとした合図のように聞こえます。
隣には、ランドセルを背負った小さな男の子と、手をつないだおばあちゃん。男の子が「ねえ、電車ブルーかな、グリーンかな」と小声で話していて、おばあちゃんが「どっちかなぁ」とにっこり笑っています。
その会話を聞いているだけで、胸のあたりがふわっと温かくなりました。
自転車の前かごには、さっきスーパーで買ったサツマイモ。「今日の夜は焼き芋にしようかな」なんて考えながら、ぼんやりと線路の先を眺めます。
ガタンゴトン、ゆっくり通り過ぎる秋
やがて、電車が見えてきました。
ガタンゴトン、ガタンゴトン。
窓ガラスが秋の光を反射して、きらりと光ります。車内ではつり革につかまった人たちが、それぞれの時間を過ごしている。本を読む人、うとうとする人、窓の外を眺める人。
風がふわっと髪をなでて、電車は走り去っていきました。
遮断機が上がると、ほんの一瞬だけ、あたりがしんと静かになります。あの静けさも、踏切待ちの好きなところ。
男の子が「ブルーだったー!」と嬉しそうに叫んで、おばあちゃんと一緒に渡っていきました。
「待つ」ことは、ちょっとした休憩時間
毎日がんばっていると、「待つ」という時間をつい無駄に感じてしまうことがあります。
でも、踏切待ちって、考えてみればすごく贅沢な時間かもしれません。
- スマホを見なくてもいい、ただ空を見上げていい時間
- 深呼吸をしても、誰にも不思議に思われない時間
- 季節の匂いや風の温度を、ちゃんと感じられる時間
予定の合間にぽっかりと空いた、数分間の小さな休憩です。
もし次に踏切の前で足止めされたら、「ついてないな」ではなく「ちょっと一息つけるな」と思ってみてください。それだけで、一日の景色が少し変わって見えるはずです。
まとめ
秋晴れの日の踏切待ちが癒される理由は、こんなところにあるのかもしれません。
- 澄んだ高い空と、やわらかな日差し
- 風にそよぐススキや、止まっている赤とんぼ
- 警報音と電車の音が作る、どこか懐かしいリズム
- 急がなくていい、ただ待つだけの時間
特別な場所に行かなくても、日常のすぐそばに、心がほどける瞬間はあるんですね。
さて、遮断機も上がったので、そろそろ帰ります。今夜は、ほくほくの焼き芋が待っています。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。
あなたの毎日にも、のんびりと空を見上げられる踏切待ちの時間が訪れますように。
ここまで読んで頂き、ありがとうございます
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