まだ空が青白いうちに、登山口を出発しました。
息が白くなるほどではないけれど、頬に触れる空気はひんやりと澄んでいます。足もとの落ち葉を踏むたびに、かさ、かさ、と乾いた音が静かな森に小さく響きました。
暗い樹林帯をぬけて、尾根へ
最初の三十分ほどは、薄暗い樹林帯の登りです。
まだ朝日が届かない森は、色が眠っているようでした。幹も葉も、青みがかった灰色にしずんでいます。
少し息が上がって、背中がじんわり温かくなってきたころ、木々の間がふっと明るくなりました。尾根に出たのです。
そこで、思わず足が止まりました。
朝日に透ける紅葉
東の空の低いところから、朝日がゆっくりと顔を出していました。
その光が斜めに差し込んで、尾根沿いの紅葉を一枚一枚、後ろから照らしています。
光を受けた葉は、まるで薄い和紙のようでした。
- 光に近い枝先は、透きとおるような黄金色
- そのすぐ下は、やわらかなオレンジ
- さらに奥へ向かうほど、深い朱色、そして赤
- 影になった枝には、まだ緑を残した葉
ひとつの山の中に、いくつもの季節が少しずつ混ざり合っています。そのつながり方が、絵の具をにじませたようにやさしくて、境目がどこにあるのか分かりません。
写真で見るよりも、実際に目の前にしたほうがずっと柔らかい。色というより、光そのものを眺めている気分でした。
尾根道を歩く時間
尾根道は、山の中でもとくに好きな場所です。
左右に視界が開けて、風がゆるやかに通り抜けていきます。登りの苦しさはもう遠くて、足もとの土の感触と、自分の呼吸のリズムだけが残ります。
ときどき風が吹くと、紅葉がひらりと舞って、朝日の中をゆっくり落ちていきました。
光の筋のなかを通るたびに、葉が一瞬だけ金色に光ります。
それを目で追っているだけで、頭のなかのざわざわしたものが、すこしずつほどけていきました。
少しだけ立ち止まって
見晴らしのいい場所で、ザックをおろして腰かけました。
魔法瓶のふたに注いだ温かいお茶を、両手で包みます。湯気が朝の光に透けて、ふわりと消えていきます。
遠くの山々は、薄い青のグラデーションになって重なっていました。手前の尾根は紅葉の暖かい色、奥の稜線は冷たい青。
暖かい色と冷たい色が、同じ景色のなかで静かに並んでいる。
それだけのことなのに、なぜだかとても安心しました。
山が教えてくれること
普段の生活では、予定や連絡や「やらなきゃ」に追われて、景色の色をゆっくり眺める余裕はあまりありません。
でも尾根道を歩いていると、急がなくていいんだな、と素直に思えます。
朝日は急がなくても昇ってくるし、紅葉は急がなくても少しずつ色を変えていく。
自分も、そのくらいのペースでいいのかもしれません。
おわりに
下山するころには、太陽はすっかり高くなって、紅葉の色も朝とは違う表情になっていました。
あの透きとおるようなグラデーションは、ほんの短い時間だけ見られる景色です。だからこそ、心に残るのだと思います。
もし朝早く起きられそうな日があったら、近くの山の尾根道を、ゆっくり歩いてみてください。
朝日に透ける紅葉が、きっとやさしく迎えてくれます。
ここまで読んで頂き、ありがとうございます
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