少しだけ疲れた日には、
高い場所へ行きたくなることがあります。
遠くまで見える場所に立つと、
自分の中で固まっていたものが、
少しずつほどけていくような気がするからです。
その丘には、
春と夏のあいだのような、
やわらかな風が吹いていました。
草は低く揺れて、
小さな花がところどころに咲いていて、
空は広く、雲はゆっくり流れていました。
何か特別な場所というわけではありません。
大きな観光地でもなく、
誰かが名前をつけた有名な丘でもなく、
ただ、静かにそこにある丘でした。
けれど、そこにはアゲハ蝶がいました。
黒と黄色の模様を持った一匹のアゲハ蝶が、
草花の上をふわりふわりと飛んでいました。
急ぐこともなく、
迷うこともなく、
風に少し身をまかせながら、
丘の上をやさしく舞っていました。
その姿を見ていると、
こちらまで呼吸がゆっくりになっていきます。
アゲハ蝶は、
何かを説明してくれるわけではありません。
励ましてくれるわけでも、
答えをくれるわけでもありません。
ただ、そこにいて、
ただ、羽を広げて、
ただ、光の中を飛んでいるだけです。
でも、その何も言わない感じが、
なぜかとてもやさしく思えました。
丘の上では、
小さなことが小さなことに戻っていきます。
頭の中で大きくなりすぎていた不安も、
胸の奥で重くなっていた気持ちも、
風にあたりながら少しずつ薄くなっていきます。
アゲハ蝶は、
花から花へと移りながら、
まるで見えない道を知っているように飛んでいました。
その道は、
人には見えないけれど、
蝶にはちゃんと見えているのかもしれません。
人生にも、
そんな道があるのかもしれないと思いました。
今は見えなくても、
ゆっくり進んでいるうちに、
いつの間にか次の場所へたどり着いている。
そんなふうに、
急がなくてもいい時間が、
この丘には流れていました。
アゲハ蝶の羽が光を受けて、
一瞬だけきらりと見えました。
その小さな輝きは、
派手なものではないけれど、
心に残るには十分でした。
癒しというのは、
大げさなものではないのかもしれません。
静かな丘。
ゆれる草。
流れる雲。
そして、
光の中を飛ぶ一匹のアゲハ蝶。
それだけで、
少しだけ明日も歩いていけるような気がしました。
癒されるアゲハ蝶の丘は、
どこか遠くにある特別な場所ではなく、
心が静かになったときに見つかる、
小さな風景なのかもしれません。
ここまで読んでくれて、ありがとうございます
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