春の終わりが近づくころ、町から少し離れた場所に、紫色の花が咲く小さな丘があります。
そこに咲いているのは、イチハツという花です。
まっすぐに伸びた葉の間から、淡い紫や青紫の花が静かに顔を出しています。
華やかすぎる花ではありません。
けれど、丘を渡る風に揺れる姿を見ていると、なぜか足を止めたくなります。
イチハツの丘には、細い土の道が一本だけ続いていました。
私は花を踏まないように、ゆっくりと丘を登っていきます。
道の両側では、紫色の花びらが春の光を受けて、やさしく輝いていました。
風が吹くたびに、細長い葉が触れ合い、小さな音を立てます。
その音は、遠くで降っている雨のようにも聞こえました。
丘の上まで来ると、町の屋根や田んぼが遠くに見えました。
空には白い雲がゆっくりと流れています。
急いでいるものは、どこにもありません。
私は花の近くに腰を下ろし、しばらく何も考えずに景色を眺めました。
毎日の中では、答えを急いでしまうことがあります。
今日中に決めなければならないこと。
早く終わらせなければならないこと。
けれど、この丘に咲くイチハツは、誰かと競うこともなく、自分の季節に合わせて花を開いていました。
早く咲く花もあれば、まだ小さなつぼみのまま風に揺れている花もあります。
それでも、どの花も同じように春の丘を彩っていました。
人も、それでいいのかもしれません。
少し遅くても、立ち止まっていても、自分の時間の中で進んでいけばいい。
そんなことを、紫色の花が静かに教えてくれているようでした。
帰り道、振り返ると、丘一面のイチハツが風に揺れていました。
見送ってくれているようにも見えました。
また心が疲れたときは、この丘へ来ようと思います。
静かな風と、やさしい紫色の花に会うために。
ここまで読んでくれて、ありがとうございます
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