田舎道をゆっくり歩いていると、草の間から小さな水の音が聞こえてきました。
それは大きな川ではなく、地図にも名前が載っていないような、細くて静かな小川でした。
水は浅く、透明で、底の小石がひとつひとつ見えるほど澄んでいます。
流れは急がず、草の根元をなでるように、さらさらと音を立てて進んでいました。
川辺には背の低い草が揺れていて、小さな白い花が、風に合わせて首をかしげていました。
遠くでは鳥の声がして、近くでは虫の羽音が聞こえます。
何か特別なものがあるわけではありません。
けれど、その何もなさが、なぜか心をやわらかくしてくれます。
都会にいると、時間はいつも前へ前へと流れていきます。
返事をしなければいけない通知。
片づけなければいけない用事。
考えすぎてしまう明日のこと。
そんなものを抱えたまま歩いていても、小川の前に立つと、少しだけ呼吸が深くなります。
水は何も言わずに流れていました。
急かすこともなく、励ますこともなく、ただ同じ調子で流れていました。
その静かさが、かえってやさしく感じられました。
川のそばにしゃがんで、水面をのぞくと、空の青と雲の白が小さく映っていました。
水の中にも、もうひとつの空があるようでした。
たまに風が吹くと、その空はゆらゆらと形を変えます。
でも、しばらくするとまた元に戻って、何事もなかったように光を映します。
人の心も、きっと同じなのかもしれません。
少し乱れる日があっても、静かな場所に身を置けば、またゆっくり整っていく。
田舎の小川には、そんなことを思わせる力があります。
派手な景色ではありません。
写真を撮っても、強い印象が残るものではないかもしれません。
けれど、心が疲れているときほど、こういう景色が深く残ります。
さらさらと流れる水。
風に揺れる草。
小さな橋の影。
遠くの家の屋根。
その全部が、何も言わずに「少し休んでいけばいい」と言ってくれているようでした。
帰り道、もう一度だけ振り返ると、小川は変わらず静かに流れていました。
私が立ち止まっても、歩き出しても、きっと明日も同じように流れているのでしょう。
そう思うと、不思議と安心しました。
癒しは、特別な場所にだけあるものではないのかもしれません。
田舎の道ばたにある小さな小川のように、気づかず通り過ぎてしまうほど静かな場所に、そっと置かれているのかもしれません。
ここまで読んでくれて、ありがとうございます
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