秋の朝の海は、夏とは少し違う顔をしています。
あれほど眩しかった日差しは、いつのまにかやわらかくなりました。水面に落ちる光も、ぎらぎらとはしゃぐのをやめて、静かにゆらゆらと揺れています。
今日は風がほとんどありません。海は大きな深呼吸のあいだで、ふっと息を止めているみたいに穏やかです。
港のそばで、海を眺める
堤防に腰を下ろすと、コンクリートの冷たさが、ほんの少しだけ手のひらに伝わってきます。夏には熱くて座っていられなかった場所が、今はちょうどいい温度になっています。
足もとでは、波がちゃぷん、ちゃぷんと小さな音を立てています。寄せては返す、そのくり返しは、誰かが静かに数を数えているようです。
遠くには、薄い青の空と、少しだけ濃い青の海。その境目はやわらかくにじんで、どこからが空で、どこからが海なのか、よくわかりません。
沖に、小さな船が見えた
ぼんやり眺めていると、沖のほうに小さな漁船が一隻、見えました。
エンジンの音は、ここまで届きません。それなのに、船はたしかに少しずつ、少しずつ進んでいます。白い航跡が、水面に細い線を描いていくのが見えます。
急ぐ様子はありません。
誰かと競うわけでもありません。
ただ、今日の海に合った速さで、静かに進んでいます。
その姿を見ていたら、肩にずっと入っていた力が、すうっと抜けていくのを感じました。
ゆっくりでも、ちゃんと進んでいる
私たちはいつも「早く」「もっと」と、自分を急かしてしまいます。
けれど、あの小さな漁船は、教えてくれているようでした。ゆっくりでも、進んでいることに変わりはないのだと。
波が高い日もあれば、霧で何も見えない朝もあるでしょう。それでも船は海に出て、また港に帰ってきます。その毎日のくり返しが、いつか大きな道のりになっていきます。
秋の穏やかな海を見ていると、そんな当たり前のことが、やさしく胸に染みてきます。
空を横切る鳥たち
ふと見上げると、鳥が数羽、船の上を横切っていきました。羽ばたく音も聞こえないほど静かな午前です。
漁船のうしろを、かもめがついていきます。つかず離れず、まるで散歩の相手をしているみたいです。
船と鳥と海。
それだけの景色なのに、どうしてこんなに満たされた気持ちになるのでしょう。
きっと、何も足さなくていい景色だからだと思います。
潮の香りと、秋の光
深く息を吸うと、潮の香りが胸いっぱいに広がります。夏よりも少し澄んでいて、どこか乾いた、やさしい匂いです。
水面に映る光が、ゆっくり形を変えていきます。細かく砕けた光の粒が、波のたびにきらきらと集まっては、またほどけていきます。
時計を見るのをやめて、ただ眺めているだけで、時間がやわらかく伸びていくようです。
船は、やがて水平線の近くへ
漁船は少しずつ小さくなって、水平線に近づいていきます。
見送っているうちに、不思議と寂しさはありません。あの船は、また明日も海に出る。そう思えるからかもしれません。
海はこれからも、穏やかな日も荒れる日も、変わらずここにあります。だから私たちも、自分のペースで、ゆっくり進んでいけばいいのだと思いました。
おわりに
もし最近、心がせわしなくなっていたら、秋の海を思い出してみてください。
穏やかな水面と、ゆっくり進む小さな漁船。
それだけで、呼吸が少し深くなる気がします。
今日もお疲れさまでした。
どうぞ、あなたのペースで、ゆっくりと。
ここまで読んで頂き、ありがとうございます
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