改札を抜けて階段を上ると、ふわりとやわらかい風が頬をなでていきました。
夕方の駅のホームです。
ふと顔を上げると、屋根の向こうに広がる空が、茜色に染まっていました。
オレンジと桃色と、ほんの少し紫がまじったような、なんとも言えないやさしい色。ところどころに浮かぶ雲の縁が金色に光っていて、まるで空が一日の終わりに、そっとごほうびをくれているようでした。
急いでいた足が、ふっと止まる
さっきまで、頭の中はやることでいっぱいでした。明日の予定、返しそびれたメッセージ、夕飯の献立。気がつけば、歩幅もいつもよりずいぶん大きくなっていたと思います。
けれど、ホームに立った瞬間、不思議と肩の力が抜けました。
次の電車まで、あと七分。
いつもなら「長いな」と思ってしまう時間なのに、今日はその七分が、小さな贈りものみたいに思えます。
ホームの景色は、静かにやさしい
ベンチには、買い物袋を膝にのせたおばあさんが座っています。袋からのぞくネギの緑が、夕焼けの色によく似合っていました。
隣のホームには、制服姿の高校生が二人。話しているのか、ただ黙って並んでいるのか、ここからは分かりません。それでも、二人の影が長くのびて、仲よく寄りそうように重なっているのが見えました。
線路の向こうでは、信号の赤い光がぽつんと灯っています。遠くの街の窓にも、ひとつ、またひとつと明かりがともりはじめました。
昼と夜のあいだにある、このほんの短い時間。
誰かが「帰る場所」へ向かう時間なんだなと、ぼんやり思いました。
空の色は、毎日ちがう
考えてみると、同じ茜色の空は、二度とないのかもしれません。
今日の雲の形も、光の角度も、風のにおいも、きっと今日だけのもの。気づかずに通りすぎてしまう日がほとんどなのに、空はそんなこと気にもせず、毎日ちゃんと夕焼けを用意してくれています。
それがなんだか、ありがたいなと思いました。
誰に見られていなくても、がんばりを認められなくても、空はいつも通りにきれいで、いつも通りにそこにある。その「いつも通り」に、心がすうっと軽くなっていきます。
電車の音が、遠くから近づいてくる
やがて、ホームにアナウンスが流れ、線路の先に電車のライトが見えました。
あたりの空気がすこしだけ動いて、髪が揺れます。茜色の空は、さっきより少し深い色になっていました。
電車に乗りこむ前、もう一度だけ空を見上げました。
今日はいろいろあったけれど、それでも、この景色に出会えたなら、悪くない一日だったのかもしれません。
ドアが閉まる音とともに、電車はゆっくり動きだします。窓の外を流れていく茜色の空が、少しずつ夜に溶けていきました。
おわりに
忙しい毎日の中で、空を見上げる余裕をなくしてしまうことがあります。
でも、駅のホームで電車を待つ数分間は、空とゆっくり向き合える、ささやかな時間かもしれません。
もし帰り道に茜色の空を見つけたら、ほんの少しだけ足を止めてみてください。
きっと、今日の疲れがやさしくほどけていくはずです。
ここまで読んで頂き、ありがとうございます
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