朝、窓を開けると、空気がすっと軽くなっていました。
見上げると、雲ひとつない青。夏のあいだ重たかった空が、ある日ふっと高くなる。秋晴れは、いつもそんなふうに静かにやってきます。
ベランダに出て、深呼吸をひとつ。ひんやりとした空気が胸の奥まで入ってきて、肩の力が抜けていきました。
そのとき、遠くから鐘の音が聞こえてきたのです。
ゴーン……。
低くて、やわらかくて、どこか丸みのある音。近くのお寺か、それとも遠くの教会か。どこで鳴っているのかはわかりません。けれど、澄んだ空気の中を、音はまっすぐ、どこまでも伸びていきました。
湿った夏の空気では、音はこもってしまう。乾いて澄んだ秋の空だからこそ、鐘の音はこんなにきれいに響くのかもしれません。
余韻が消えるまで、私はただ立っていました。
ゴーン……。
もう一度。さっきより少し遠くに、でも確かに、空へ溶けていく音。
そういえば、最近は音をゆっくり聴くことがなかったなと思いました。スマホの通知音、電車のアナウンス、テレビの声。毎日たくさんの音に囲まれているのに、「聴いている」と言える音はどれだけあっただろう。
鐘の音には、「急がなくていいよ」と言われているような響きがあります。
洗濯物を干しながら、ふと下の道を見ると、散歩中のおじいさんが立ち止まって、空を見上げていました。同じ音を聴いているのだと思うと、知らない人なのに、少しだけ心がつながったような気持ちになります。
温かいお茶を淹れて、窓辺に腰かけました。湯気の向こうに、澄んだ青空。庭の木の葉が風にそよぐ音と、遠い鐘の余韻。
特別なことは何もない、ただの秋晴れの朝。けれど、こういう時間こそが、いちばん心を整えてくれる気がします。
もし今日、少しだけ心が疲れているなら、空を見上げてみてください。
そして、耳をすませてみてください。
どこかで、澄んだ空に響く音が、あなたを待っているかもしれません。
ここまで読んで頂き、ありがとうございます
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