2026年10月10日土曜日

癒されるUSBハブがきになるメインクーンという猫

癒されるUSBハブがきになるメインクーンという猫

 夜の八時を過ぎると、部屋の音がひとつずつ静かになっていく。

冷蔵庫の低いうなりと、窓の外を通る自転車の音。それから、机の端でちいさく光る緑のランプ。

このランプを、いちばん気にしている住人がいる。メインクーンの「ソラ」だ。

ソラは、ふわふわの大きな体をゆっくり運んで、机の上にあがってくる。尻尾は長い。通り道にあるものを、さりげなく全部なでていく。

そして、いつもの場所で立ち止まる。パソコンの横に置かれた、小さなUSBハブの前だ。

銀色の四角い箱から、ケーブルが何本ものびている。マウス、キーボード、スマホの充電器。ソラにとっては、それがひとつの「巣」に見えているのかもしれない。

ソラはまず、鼻先をそっと近づける。くん、くん、と匂いを確かめる。

それから、ランプに目をやる。緑の光が、ぽっと灯っては、ときどきちいさく瞬く。そのたびに、ソラの瞳もまるくなる。

「それは、なにをしている光なの?」

そう聞きたそうな顔で、こちらを見上げてくる。

わたしは作業の手を止めて、ソラの背中をひとなでする。毛並みは、陽だまりで干した毛布みたいにやわらかい。

「それはね、みんなをつないでいる箱なんだよ」

もちろん、ソラには通じない。でもソラは、ふうん、というように目を細めて、箱の横にゆっくり座り込んだ。

しばらくすると、前足をそっと伸ばす。肉球で、ハブの角をちょんとつつく。

動かない。かたい。でも、あたたかい。

長く使っているうちに、ハブは少しだけぬくもりをもつようになった。ソラはそれを、ちゃんと知っている。

ケーブルを軽く咥えようとして、わたしに「こらこら」と言われる。ソラは悪びれもせず、ぱちぱちとまばたきをする。

その顔があまりにのんびりしているので、叱ったはずのわたしのほうが、先に笑ってしまう。

仕事で疲れた日ほど、この時間がありがたい。

画面のなかでは、いろんな文字や数字が流れていく。けれど机の端では、大きな猫がUSBハブのとなりで丸くなっている。ただ光を眺めて、ただそこにいる。

ひとつの小さな箱が、わたしの手もとの道具たちをつないでいる。そして同じ箱が、ソラの落ち着ける場所にもなっている。

そう思うと、なんでもない机の上が、ちょっとだけ特別に見えてくる。

ソラの喉が、ごろごろと鳴りはじめた。

低くて、やさしい音。ハブのランプの瞬きと、不思議なほどリズムが合っている。

わたしはキーボードの上で手を止めたまま、その音に耳をすませる。

急がなくていい。いまは、この音をきいていよう。

夜はゆっくり更けていく。緑のランプは、静かに灯りつづけている。

そのとなりで、メインクーンは、いつのまにか目を閉じていた。

ふわふわの毛が、ランプの光をうけて、ほんのり緑色にふちどられる。

きっと明日の夜も、ソラは同じ場所にやってくる。

小さな箱と、大きな猫と、わたし。

それだけで、部屋はもう、じゅうぶんにあたたかい。

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