日曜の午後、窓から入る光はやわらかく、部屋の空気までゆっくりと動いているようだった。
テーブルの上には、先週届いたばかりのノートPCスタンドが置いてある。アルミの細い脚が斜めに組まれていて、真っ白な光を受けると、静かに銀色の線を描く。
その前に、彼女が座っていた。
メインクーンの「ソラ」である。
体は大きいのに、動きはいつもおっとりしている。ふさふさの首まわりの毛が、午後の光を含んで金色にふくらんでいる。耳の先には、ちょんと立った毛の房。まるで小さな筆のようだった。
ソラは、じっとスタンドを見つめていた。
届いた日から、ずっとこうだ。箱を開けたときは、中に入ろうとして段ボールにぎゅうぎゅうと体を押し込んでいた。それが終わると、今度は中身のほうが気になったらしい。
「そんなに気になる?」
声をかけても、ソラは振り向かない。尻尾の先だけが、ぱたん、ぱたん、と机の脚をたたく。気になる、と言っているのだと思う。
ぼくはノートPCをスタンドにそっと乗せた。画面の位置が少し高くなり、背筋がのびる。いつもは猫背でのぞきこんでいた文字が、今日は正面から迎えてくれる。
そのときだった。
ソラが、とん、と椅子に飛び乗った。大きな体なのに、着地の音はほとんどしない。そのまま前足をテーブルにかけて、スタンドの脚に鼻先を近づける。
くんくん。
ひげがふるふると揺れる。冷たい金属のにおいを確かめているのだろうか。それとも、脚の下にできた小さなすき間が、気になるのだろうか。
PCとテーブルのあいだに生まれた、細長い空間。
ソラはそこを、じっとのぞきこんでいた。
やがて、前足がそろりと伸びた。肉球が、すき間のふちに触れる。少しだけ引っ込めて、また触れる。何度かそれを繰り返したあと、満足したように、ふう、と鼻から息をもらした。
どうやら、合格らしい。
ぼくは小さく笑って、キーボードに指を置いた。
すると、ソラはテーブルの端に、ごろんと体を横たえた。スタンドのすぐ隣。ちょうど、ぼくの手元と画面のあいだに、ふわふわの背中が収まる位置だ。
PCのファンが、かすかに回る音。その下で、ソラののどが、ごろごろと低く鳴りはじめる。
ふたつの音が重なって、部屋の中に、ゆるやかな波ができた。
画面の向こうの文字が、少しずつ遠くなる。
ぼくは手を止めて、ソラの背中にそっと触れた。あたたかい。長い毛のなかに指がうずまって、どこまでが猫で、どこからが午後の光なのか分からなくなる。
ノートPCスタンドは、ただ画面を持ち上げるだけの道具だ。
けれど、持ち上がったすき間に、猫が収まる。猫がいると、時間がゆっくりになる。ゆっくりになった時間のなかで、肩の力が、少しずつほどけていく。
そんな午後のことを、ぼくは「癒し」と呼んでいいのだと思う。
ソラは薄く目を開けて、ぼくを一度だけ見た。琥珀色の瞳に、窓の光が小さく映っている。
それから、また目を閉じた。
ごろごろ、ごろごろ。
窓の外では、雲がゆっくりと流れていく。スタンドの銀色の脚が、その光を静かに受けとめていた。
今日もまた、おだやかな一日が、ゆっくりと過ぎていく。
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