太陽が見えなくなって、少し時間が経ったころ。
「夕焼けは終わった」と思って家に入りかけたとき、ふと空を見上げて足が止まりました。
そこには、さっきまでの燃えるような茜色とは違う、静かな空がありました。
夕焼けのあとに、もうひとつの空がある
日没の瞬間は、誰もが空を見上げます。
オレンジに染まる雲、まぶしい光の筋、足もとまで伸びる長い影。まるで空が主役になったような時間です。
けれど、太陽が沈みきったあとの空には、また別の表情があります。
昼の青と夜の藍のあいだに、ほんの短いあいだだけ現れる色。淡い桃色が溶けて、薄い紫になり、その上にゆっくりと深い青が重なっていきます。
派手さはありません。けれど、気づいた人の心をそっとゆるめてくれる、やさしい色です。
色が移ろっていく、数十分の贈りもの
低い位置には、まだ名残の光がかすかに残っています。
そこから視線を上へ上へとたどっていくと、空は少しずつ色を変えていきます。
- 地平線のあたりは、ほのかに明るい薄桃色
- その上に、霞んだラベンダーのような紫
- さらに上には、静かに深まっていく群青
絵の具で描いたら、きっとどこかで境目ができてしまうでしょう。でも空には境目がありません。ひとつの色が、息をするようにとなりの色へ溶けていきます。
雲が浮かんでいれば、その縁だけが淡く紫に縁取られて、まるで空に薄いヴェールがかかったように見えます。
一日の「おつかれさま」みたいな空
この時間の空を見ていると、不思議と肩の力が抜けていきます。
今日は忙しかった日も、うまくいかなかった日も、何も起こらなかった日も、空は同じように、ゆっくりと夜へ向かっていきます。
だれかに急かされることもなく、結論を出す必要もなく、ただ色が変わっていくだけ。
その様子を眺めていると、「今日も一日、ここまで来られたんだな」と思えてきます。
頑張ったことも、頑張れなかったことも、全部ひっくるめて受け止めてくれるような、そんな懐の深さが、この紫色にはある気がします。
音が少しずつ静かになる時間
日没後の空の下では、街の音もやわらかくなります。
遠くを走る電車の音。どこかの家から聞こえる食器の音。帰り道を急ぐ自転車のライトと、ふわりと漂ってくる夕ごはんの匂い。
窓にひとつ、またひとつと灯りがともっていきます。
空の紫と、窓のあたたかなオレンジ色。この二つが並ぶ景色は、一日の中でもとくに好きな眺めのひとつです。
見逃してしまうのは、ちょっともったいない
この紫色の時間は、とても短いものです。
気づけば空は藍色になり、星がひとつふたつ顔を出して、いつのまにか夜の空に変わっています。
だからこそ、思い出したときに外へ出て、少しだけ空を見上げる時間をつくってみてほしいのです。
特別な場所は必要ありません。ベランダでも、駅までの道でも、窓辺でも大丈夫です。
スマホをポケットにしまって、深呼吸をひとつ。それだけで、空は十分にやさしく迎えてくれます。
今日の終わりに
日が沈んでも、一日の美しさはまだ終わっていませんでした。
むしろ、静かになったあとの空にこそ、見落としがちなやさしさが残っているのかもしれません。
もし今日、少しだけ疲れていたり、心がざわついていたりしたなら、どうか窓の外を見てみてください。
そこにはきっと、あなたの一日をそっと包み込むような、淡い紫色のグラデーションが広がっているはずです。
今日もおつかれさまでした。
おだやかな夜が、あなたに訪れますように。
ここまで読んで頂き、ありがとうございます
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