カーテンのすき間から、うすいミルク色の光がのびてくる朝。
まだ町が眠っているような静けさの中で、最初に聞こえてくるのは、時計の音でも鳥の声でもありません。
――カラカラカラ……。
やわらかく、一定のリズムで回る、車輪の音です。
目を細めて音のほうを見ると、部屋の隅に置かれたキャットホイールの中で、一匹のマンチカンが走っていました。名前は「もなか」。ふわふわの毛並みはきなこ色で、短い足を一生けんめい動かしています。
短い足、という言葉からは想像できないほど、もなかの走りは軽やかです。トトトト、と小さな足が回転にあわせて前へ前へと進み、そのたびに車輪がカラカラと鳴ります。耳はぴんと立ち、しっぽはゆらりと後ろでバランスをとっていました。
朝のひかりが、車輪の骨組みの影を床に落としています。その影が、回るたびにゆっくりと形を変えて、まるで小さな万華鏡のようでした。
もなかは、この時間が一日の中でいちばん好きなようです。ごはんの前でも、お気に入りのブランケットの上でもなく、まずはホイールへ。それがこの子の朝のはじまりなのです。
しばらく走ると、もなかはふっと足をゆるめます。車輪はまだ名残りをおしむように、カラ……カラ……と静かに回り続けました。
そして、くるりとこちらを向いて、ひとこえ。
「みゃ」
「走ったよ、見ていた?」と言っているような、ちょっぴり得意げな声です。
「見ていたよ、すごいね」と声をかけると、もなかは満足そうに目をとじて、ホイールの中でぐーっと体をのばしました。背中のラインがやわらかく弧を描いて、前足の先まで気持ちよさそうにのびていきます。
窓の外では、ようやく町が目をさましはじめました。遠くで聞こえる自転車のベル。ごみ収集の車の音。どこかの家のドアが開く気配。
けれど、この部屋だけは、まだ少しゆっくりとした時間が流れています。
走り終えたもなかが、ホイールからぴょんと降りて、とてとてと足もとへやってきました。ほんのりあたたかい体を、ぽすんと足にもたせかけてきます。呼吸にあわせて、小さなおなかがふくらんだり、へこんだり。
ひとしきり走ったあとの、このぬくもり。
朝のひかりと、ゴロゴロというのどの音。
それだけで、「今日もいい一日になりそうだな」と思えるから不思議です。
何かを頑張った朝は、それだけで少し誇らしい。
もなかを見ていると、そんなふうに思えてきます。
カラカラカラ、と回る車輪の音は、いつのまにか、わたしにとっても朝のおまじないになっていました。
さあ、もなかにごはんをあげて、わたしも一日をはじめましょう。
窓のむこうには、やさしい朝のひかりが広がっています。
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