秋の海辺には、夏とはまったく違う静けさがあります。
あれほどにぎやかだった砂浜から人の声が消え、波の音だけがゆっくりと行き来している。そんな季節に、ふらりと防波堤まで歩いてみました。
防波堤に腰をおろす
コンクリートの上に座ると、ひんやりとした感触がじんわりと伝わってきます。夏の間に熱をたっぷり溜め込んでいたはずなのに、いまはすっかり落ち着いた温度。季節がひとつ進んだことを、お尻から教えてもらった気分です。
目の前には、どこまでも続く海。
波は大きくもなく、小さくもなく、同じリズムで防波堤の足元にぶつかっては、白い泡をほどいて戻っていきます。ちゃぷん、ちゃぷん、と。ただそれだけの音なのに、聞いているうちに肩の力がすっと抜けていくのが分かります。
空いっぱいに広がるうろこ雲
ふと見上げると、空には一面のうろこ雲。
小さな雲が、まるで魚のうろこのように整然と、でもどこかゆるやかに並んでいます。夏の入道雲のような迫力はありません。その代わり、空の高いところで、静かに、淡く、広がっている。
海の青と、空の青と、雲の白。
使われている色はたったそれだけなのに、眺めていて飽きることがありません。雲の隙間からこぼれる光が海面に落ちて、ところどころがきらりと光る。その光も、夏のようなギラギラしたものではなく、やわらかく、どこか透きとおっています。
風の匂いが変わる季節
秋の海風は、夏よりも少しだけ乾いています。
潮の香りはあるのに、不思議とべたつかない。頬をなでていく風が涼しくて、深呼吸をするたびに、胸の奥まで澄んだ空気が入ってくるようです。
遠くでは、釣り糸を垂れている人の背中が見えます。じっと海を見つめて、ときどき竿の先を確かめて、また静かに待つ。その姿を眺めているだけで、時間の流れ方が少しゆっくりになるような気がしました。
カモメが一羽、風に乗ってすうっと横切っていきます。羽ばたきもせず、ただ風を信じて空を滑っていく。その自由さが、ちょっとうらやましくなりました。
何もしない時間のぜいたく
防波堤に座っている間、私はスマホを一度も見ませんでした。
何かを考えていたわけでもなく、何かを決めたわけでもありません。ただ、波の音を聞いて、雲を眺めて、風にあたっていただけ。
けれど、帰るころには、気持ちがすっかり軽くなっていました。
忙しい毎日の中では、「何かしなきゃ」「早く進めなきゃ」と、つい自分を急かしてしまいます。でも、海と空の前では、そんな焦りがなんだかちっぽけに思えてくるから不思議です。
おわりに
うろこ雲は、風が吹けば形を変え、やがてゆっくりと流れていきます。いつまでも同じ姿ではいられないけれど、だからこそ、いま目の前にある景色がいとおしく感じられるのかもしれません。
もし最近、少し疲れているなと感じることがあれば、秋の海辺の防波堤まで足を運んでみてください。
特別なことは何もいりません。ただ座って、空を見上げるだけで、心がふっとやわらぐはずです。
波の音と、うろこ雲と、秋の風。
そのやさしい時間が、あなたの毎日をそっと癒してくれますように。
ここまで読んで頂き、ありがとうございます
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