2026年9月21日月曜日

癒される秋雨とキンモクセイの残り香と黒猫

癒される秋雨とキンモクセイの残り香と黒猫

しとしとと降る秋の雨が、静かな住宅街の屋根を濡らしていた。灰色の空からこぼれる雨粒は、まだ夏の名残を残す湿った土の匂いと混ざり合い、どこか懐かしい空気を運んでくる。

一匹の黒猫が、軒先の下でそっと雨宿りをしていた。艶やかな黒い毛並みは雨に濡れることを嫌うように、屋根の影の中にきちんと収まっている。金色の瞳は、庭先に植えられたキンモクセイの木をじっと見つめていた。

数日前まで、あの木はオレンジ色の小さな花を無数につけ、あたり一帯に甘く優しい香りを漂わせていた。今はもうその花のほとんどが雨に打たれて地面に散り、木の下には橙色の絨毯ができている。けれど、雨に湿った空気の中には、まだかすかに、あの甘い残り香が溶け込んでいた。

黒猫はゆっくりと鼻先を上げ、その香りを確かめるように風を嗅いだ。すっかり散ってしまった花よりも、雨に濡れて濃くなったその残り香のほうが、なぜか胸の奥に染み込んでくるようだった。

雨音はやむことなく続く。傘をさした人が一人、二人と、猫の前を通り過ぎていく。誰も足を止めることはないけれど、黒猫はその静かな時間をただ味わうように、軒先に座り続けていた。

遠くで電線に止まっていた雀が、雨宿りの場所を探して飛び立つ。その羽音に黒猫は一瞬だけ耳を動かしたが、すぐにまた視線をキンモクセイの木へと戻した。散った花びらの上に落ちる雨粒が、小さな波紋を作っては消えていく。その繰り返しを、黒猫はいつまでも飽きることなく眺めていた。

やがて雨脚が少しだけ弱まり、雲の切れ間からうっすらと光が差し込んだ。濡れたキンモクセイの葉が、その光を受けてきらきらと輝く。黒猫はゆっくりと立ち上がり、香りの元へ近づくように、そっと庭先へと歩き出した。

秋の雨と、消えゆく花の残り香と、それを静かに見つめる黒猫。三つが重なり合うその一瞬は、慌ただしい日常のどこにも見つからない、穏やかな時間だった。


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