山道を歩いていると、時間の流れが少しだけゆっくりになる気がします。
急いでいるわけでもなく、どこかに早く着かなければいけないわけでもなく、ただ目の前に続く道を一歩ずつ進んでいく。
それだけなのに、不思議と心が静かになっていきます。
山道には、町の道とは違う音があります。
車の音や人の声ではなく、風が木の葉を揺らす音。
小さな鳥の鳴き声。
足元の土や落ち葉を踏む、やわらかな音。
何気ない音ばかりなのに、それが重なると、まるで山全体が静かに呼吸しているように感じます。
道の端には、名前も知らない草花が咲いています。
誰かに見られるためではなく、ただ季節が来たから咲いているような小さな花。
その姿を見ると、自分もそんなふうに自然でいいのかもしれないと思えてきます。
山道は、ずっと平らではありません。
少し登ったかと思えば、ゆるやかに下っていく。
曲がり道の先が見えないこともあります。
でも、その見えなさが少し楽しいのです。
この先には何があるのだろう。
木漏れ日のきれいな場所かもしれない。
小さな沢が流れているかもしれない。
遠くの山が見える場所に出るかもしれない。
そんな小さな期待が、足を前に進ませてくれます。
木々の間から差し込む光は、町で見る光よりもやさしく感じます。
葉っぱに一度触れてから降りてくるからでしょうか。
強すぎず、まぶしすぎず、肩にそっと置かれるような光です。
疲れていた心も、その光を浴びると少しだけ軽くなります。
山道を歩いていると、何か大きな答えが見つかるわけではありません。
悩みが全部消えるわけでもありません。
けれど、頭の中で固まっていたものが、少しずつほどけていく感じがあります。
考えすぎていたことが、木の葉の音にまぎれて遠くへ流れていく。
心の中に空気が入ってくる。
それだけで、十分癒されるのです。
山道の魅力は、特別な景色だけではありません。
苔の生えた石。
古い木の根。
道に落ちた一枚の葉。
そういう小さなものが、静かにそこにあることです。
何も語らないのに、長い時間を過ごしてきたような落ち着きがあります。
人の暮らしは、つい速くなりすぎます。
次のこと、先のこと、まだできていないことばかり考えてしまいます。
でも山道では、今踏んでいる一歩がちゃんと感じられます。
風が吹いたこと。
光が揺れたこと。
少し汗をかいたこと。
そういう小さな感覚が、自分を今に戻してくれます。
山道を抜けた先に、立派な展望台がなくてもいいのです。
大きな観光名所でなくてもいいのです。
ただ、静かな道を歩いて、木々のにおいを感じて、空を見上げる。
それだけで、心は少し休まります。
癒される山道とは、きっと遠くにある特別な場所ではありません。
少しだけ日常から離れて、自分の歩く速さを取り戻せる場所。
何も急かさず、何も求めず、ただ静かに迎えてくれる場所。
そんな山道を歩く時間は、心の中に小さな余白を作ってくれるのだと思います。
ここまで読んでくれて、ありがとうございます
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