夏の海に行くと、遠くから波の音が聞こえてきます。
ざざん、ざざん、と同じようで少しずつ違う音が、暑さで疲れた心をゆっくりほどいてくれるようでした。
砂浜の向こうに、小さな海の家が見えます。
派手な建物ではありません。
少し色あせた木の柱と、風に揺れるのれんと、軒先に置かれた古いベンチ。
それだけなのに、なぜかそこには帰ってきたような安心感があります。
海の家の中には、かき氷の旗が揺れていました。
冷たいラムネの瓶が木箱に並び、氷の入ったバケツの中で小さく音を立てています。
テーブルの上には、誰かが食べ終えた焼きそばの皿と、半分だけ残った麦茶。
そういう何でもない景色が、夏らしくて、少し懐かしく感じます。
外では子どもたちの声がして、波打ち際ではサンダルを脱いだ人たちが海を眺めていました。
でも、海の家の奥に座っていると、そのにぎやかさも少し遠くなります。
日陰に入るだけで、体の熱が少しずつ引いていきます。
潮風が通り抜けるたびに、のれんがふわりと動きました。
風には海のにおいと、焼けた砂のにおいと、どこか甘い夏のにおいが混ざっています。
何か特別なことをしているわけではありません。
ただ座って、海を見て、冷たい飲み物を飲むだけです。
けれど、その何もしない時間こそが、いちばん贅沢なのかもしれません。
忙しい日々の中では、何かをしなければいけない気がしてしまいます。
早く進まないと、置いていかれるような気持ちになることもあります。
でも海の家では、時間が少しだけゆっくり流れていました。
波は急ぎません。
雲も急ぎません。
氷が溶ける音さえ、静かな夏の一部になっていました。
夕方が近づくと、海の色が少しずつ変わっていきます。
昼間の明るい青から、やわらかな金色へ。
海の家の影も長く伸びて、砂浜に静かな模様を作ります。
帰る人たちの足跡が砂に残り、波がそれを少しずつ消していきます。
その景色を見ていると、今日の疲れも、心のざわざわも、海がそっと持っていってくれるような気がしました。
癒される海の家とは、豪華な場所ではないのだと思います。
少し古くて、少し静かで、風が通って、海が見える場所。
そこに座るだけで、心が深呼吸できる場所。
またいつか夏が来たら、同じような海の家で、冷たいラムネを飲みながら、何もしない時間を過ごしたいです。
波の音を聞きながら、ただぼんやりと海を眺める。
それだけで、十分に癒される一日になる気がします。
ここまで読んでくれて、ありがとうございます
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