空が高くなる季節に
ふと見上げた空が、いつもより遠くにあると感じる日があります。
夏のあいだ、空はどこか重たくて、白い雲がもくもくと積み上がっていました。それが秋になると、すっと一枚ぶん高くなって、青がきれいに澄んでいきます。空気の中の水分が少なくなるせいだと聞いたことがありますが、理由を知らなくても、その青を見ただけで胸の奥がふっとゆるみます。
そんな秋晴れの日に、丘の上のコスモス畑へ出かけてみました。
ゆるやかな坂道の先に
丘のふもとから、ゆるやかな坂道をのぼっていきます。急ぐ必要はなく、ときどき立ち止まって、ふり返りながら歩きました。
道の脇には、ススキが穂を揺らしています。足もとでは、小さな虫の声。耳をすませると、遠くで誰かが話している声さえ、風にほどけて聞こえなくなっていきます。
のぼるほどに空は広くなって、視界の上半分がぜんぶ青になる。その感覚だけで、もう来てよかったと思えました。
丘のてっぺんで、ピンクと白の海
坂をのぼりきったところで、景色がぱっとひらけました。
淡いピンク、白、濃いめの紅色。コスモスが丘いっぱいに広がって、風が吹くたびに、花の海がやわらかく波打ちます。細い茎と薄い花びらは、頼りなさそうに見えるのに、風に身をまかせるように揺れているだけで、折れることがありません。
その姿を見ていたら、力を入れすぎず、ただ揺れていてもいいのかもしれないと、ふと思いました。
花びらのひとつひとつに秋の光が透けて、まるで内側から小さく灯りがともっているようです。澄んだ空の青を背景にすると、ピンクがいっそうやさしく浮かび上がりました。
何もしない時間をひとつ
丘の上には、小さなベンチがありました。そこに腰かけて、しばらく何もせずに過ごします。
スマートフォンはカバンの中へ。写真は、最初の数枚だけで十分でした。あとは目で見て、肌で風を感じて、コスモスの揺れる音にならない音を聞いているだけ。
頬をなでる風は、ほんのり冷たくて、日なたの部分だけがあたたかい。この「ちょうどいい」の感じが、秋の晴れた日の、いちばんの贅沢だと思います。
空にはうっすらと筋雲が、ゆっくり形を変えながら流れていました。雲の動きを目で追っているうちに、頭の中のざわざわしたものが、ひとつずつ静かに溶けていきます。
帰り道に思ったこと
日が少し傾くころ、また坂道をおりはじめました。来たときと同じ道なのに、光の角度が変わって、景色がすこし金色がかって見えます。
癒しは、特別な場所や特別な何かだけにあるのではなく、澄んだ空を見上げる数分や、花が風に揺れるのを眺める時間の中にもあるのだと、あらためて感じた一日でした。
もし最近、気持ちが少し忙しいなと感じていたら、天気のいい日に、近くの丘や公園まで足をのばしてみてください。高くなった秋の空と、風に揺れる花たちが、きっとやさしく迎えてくれます。
今日もあなたの一日に、小さな癒しがありますように。
ここまで読んで頂き、ありがとうございます
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