2026年9月16日水曜日

癒される夏の終わりの高層マンションのベランダ

癒される夏の終わりの高層マンションのベランダ

夕方五時を過ぎても、まだ空はどこか眩しさを残している。高層マンションの十八階、南向きのベランダに出ると、街全体が夕暮れの光に染まりはじめていた。

コンクリートの床はまだ日中の熱をわずかに含んでいて、素足で立つとほんのり温かい。けれど吹き込む風には、真夏のあの重たい湿気はもうない。どこかに秋の気配を隠した、涼しくてやわらかな風が、ベランダの手すりをすり抜けていく。物干しに掛けられた薄手のカーテンが、ふわりと揺れて、また静かに戻る。

眼下には見慣れた街並みが広がっている。夕方の車のライトが小さく点々と連なり、まるで川のように流れていく。遠くには夕焼けに染まる山々のシルエットがうっすらと浮かび、ビルとビルの隙間から差し込む光が、窓ガラスに反射してオレンジ色に輝いていた。

ベランダに置かれた小さな椅子に腰を下ろすと、少し離れたところから風鈴の音が聞こえてくる。誰かの部屋のベランダに吊るされたままの風鈴が、季節の終わりを惜しむように、控えめな音を鳴らしていた。夏の名残と、秋を待つ気持ちが、その音色の中で静かに重なっているようだった。

空の色は少しずつ変わっていく。オレンジから、薄い紫へ、そして深い藍色へ。街の灯りがひとつずつ点り始め、高層マンションの窓々にもぽつぽつと明かりが灯っていく。まるで空に映る星と、街に灯る光が、どちらが先かを競い合っているようだった。

セミの声は、もうほとんど聞こえない。かわりに、どこからか虫の音が控えめに響いてくる。その小さな声が、夏の終わりを静かに知らせているようで、少し寂しくて、それでも心地よかった。

高いところから見る景色は、日常の喧騒から少し離れた場所にいるような感覚を連れてくる。手が届かないほど遠くにある街の明かりを眺めながら、今日という一日が静かに終わっていくのを感じる。誰にも急かされることのないこの時間が、何よりも贅沢に思えた。

夜風が少し冷たくなってきた頃、部屋の中に戻る前にもう一度だけ空を見上げる。星はまだ数えるほどしか見えないけれど、ひとつ、またひとつと、静かに増えていく。

夏が終わろうとしているこの瞬間、高層マンションのベランダから見える景色は、忙しかった季節をそっとねぎらってくれているようだった。次の季節への扉が、少しだけ開いている。そんな予感を胸に、ベランダの扉をゆっくりと閉めた。


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